マイクロプラスチックの人体への影響と対策

  

 

現代社会において、マイクロプラスチックとナノプラスチックの問題がますます注目されています。これらは、自然界におけるプラスチックの分解過程や、製品に含まれるプラスチック微粒子が原因となり、食品や水、空気などを通じて人々の生活に侵入しています。ここでは、マイクロプラスチックとナノプラスチックがどのように人体や環境に影響を与えるか、具体的な製品や代替品も含めて解説します。

マイクロプラスチックとナノプラスチック

マイクロプラスチックとは、直径が5mm以下の小さなプラスチック片を指し、日常の製品や使い捨てプラスチックが分解されて発生します。一方、ナノプラスチックはさらに微細で、1-100ナノメートル(1ナノメートルは1ミリメートルの100万分の1)のサイズを持ち、肉眼で確認することができません。

これらの粒子は非常に小さいため、食品や水、空気とともに体内に取り込まれるリスクがあります。また、経口摂取だけでなく、皮膚吸収や呼吸を通じて吸入される場合もあります。私たちは日々の生活の中で、知らないうちにこうしたプラスチック微粒子に曝露されているのです。


人体への曝露と影響

研究によると、アメリカ人の平均的な成人は、毎年少なくとも5万個のマイクロプラスチック粒子を飲食し、同じ量を吸い込んでいると推定されています。これらの粒子は、臓器や細胞レベルで悪影響を及ぼす可能性があり、一部の科学者は、これらがミトコンドリア*に損傷を与えるリスクがあると指摘しています。ミトコンドリアは細胞内でエネルギーを生産する重要な役割を持つため、損傷を受けると細胞の正常な働きが阻害され、エネルギー不足や細胞死につながる可能性があります。


 マイクロプラスチックの健康リスク

50ナノメートル程度の非常に小さなポリスチレン粒子は、人体の細胞に対して遺伝毒性や細胞毒性の影響を及ぼすとされています。特に、肺の上皮細胞や免疫細胞であるマクロファージに影響を与え、炎症反応を引き起こすことが報告されています。また、2021年の研究では、腎臓の細胞でポリスチレンマイクロプラスチックがミトコンドリア機能障害や炎症反応、細胞の自己分解を調整するオートファジー*の異常を引き起こすことが確認されました。こうした影響は、特に臓器の正常な機能に悪影響を与えると考えられています。

 

ナノ材料の影響

近年、プラスチック以外のナノ材料、例えば二酸化チタンや銀ナノ粒子なども人体に与える影響が注目されています。これらのナノ材料は、特にミトコンドリアにダメージを与えるとされ、ミトコンドリアの変形を引き起こし、結果としてミトコンドリアの分裂が促進されます。銀ナノ粒子は細胞のエネルギー源を減少させ、ミトコンドリアの断片化を引き起こすことが確認されています。

これらの影響は、特に長期間にわたってナノ材料に曝露されることでリスクが増大するため、今後の研究でさらに明らかにしていく必要があります。

 


ナノプラスチック・マイクロプラスチックを含む身近な製品と代替案

1. 歯磨き粉

歯磨き粉には、マイクロビーズなどのプラスチック粒子が研磨剤として含まれており、使用後は下水を通じて環境に流れ込みます。

代替品: マイクロプラスチック不使用の天然由来歯磨き粉(例: アーユルヴェーダ歯磨き粉やバンブーチャコール歯磨き粉)。


2. スクラブ洗顔料や化粧品

スクラブ洗顔料やUVカット製品などには、角質除去や紫外線カットの目的で合成ポリマーやナノ粒子(二酸化チタン、酸化亜鉛)が含まれる場合があります。

代替品: 天然のスクラブ成分を使用した製品(例: オートミール、砂糖、塩入りのスクラブ)。


3. 衣類(合成繊維)

ポリエステルやナイロンなどの合成繊維製衣類(特にフリースやスポーツウェア)は、洗濯時に繊維が破損してマイクロプラスチックが排水中に放出されます。

代替品: オーガニックコットンや竹繊維の衣類(例: 天然素材のTシャツや下着)。


4. ティーバッグ

プラスチック製ティーバッグは、熱湯を注ぐ際にマイクロプラスチックを放出する可能性があります。

代替品: コットン製ティーバッグやステンレス製ティーストレーナー(例: コットンティーバッグやリーフティー用の金属ストレーナー)。


5. ペットボトル・食品包装材

PETボトルや一部の食品包装材にはナノプラスチックが含まれ、食品や飲料への移行が懸念されています。

代替品: ステンレスボトルやガラス製保存容器(例: Hydro Flask や Nalgene のステンレスボトル、ガラス保存瓶)。

 

今後の課題と展望

プラスチックの生産量は増加の一途をたどっており、2050年には世界で330億トン以上が生産されると予測されています。この膨大な量のプラスチックが環境中に拡散し、分解される過程でマイクロプラスチックやナノプラスチックが生まれ、ますます私たちの生活に侵入してくるのです。

マイクロプラスチックやナノプラスチックの長期的な健康への影響はまだ解明されていない部分が多く、さらなる研究が求められます。これからの研究により、人体への影響をより詳しく理解し、健康リスクの軽減に役立つ新たな知見が提供されるでしょう。


 

私たちが日々使用している製品にもマイクロプラスチックが含まれていることが多いため、環境に配慮した代替品の選択や日常的な使用方法の見直しを検討することが、健康や環境保護につながる一歩となりますね。プラスチック製剤は便利ではありますが今一度身近なリスクについて検証してみませんか。

 

用語説明

*ミトコンドリア:細胞内に存在する小器官で、エネルギー源であるATPを生成する「細胞の発電所」として機能し、細胞の代謝やカルシウム調節、アポトーシス(細胞死)の制御に関連する。

*オートファジー:細胞内の不要なタンパク質や損傷した構造物を分解・再利用する自己浄化システム。細胞の健康維持や老化、病気の予防に重要。

 

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参考文献

1.Napper, I. E., & Thompson, R. C. (2016). Environmental impact of microplastics in personal care products. Environmental Science & Technology.

2.Plastic Soup Foundation reports that microbeads used in cosmetics are a major source of microplastic pollution. (2018)
3.Browne, M. A., et al. (2011). Accumulation of microplastic on shorelines worldwide: Sources and sinks. Environmental Science & Technology.
4.Hernandez, L. M., Yousefi, N., & Tufenkji, N. (2019). Plastic Teabags Release Billions of Microparticles and Nanoparticles into Tea. Environmental Science & Technology.
5.Karami, A., et al. (2017). The presence of microplastics in commercial salts from different countries. Scientific Reports.

 

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