隠れ貧血が増加中?健康診断では見逃される鉄不足の真実

日常生活で突然目の前が暗くなったりする経験は起きていませんか?
生理前、生理中に顎にニキビができやすい。
疲れやすい、イライラする、、
その原因は貧血かもしれません。ここでは貧血とホルモンの関係について見ていきましょう。
女性と鉄分
- 先進国の女性の15-35%が鉄欠乏症であり、貧血の診断をされていなくても2~3人に1人が貧血状態(隠れ貧血)の可能性があるという研究報告があります。関連記事隠れ貧血に注意
- 鉄欠乏のリスクは、以下の要因によって増加します。
- 月経過多(Menorrhagia): 大量の出血があると、鉄分が失われやすくなります。
- 低ビタミンD: ビタミンDは鉄の吸収に関与しているため、低いと影響を受けます。
- 低エネルギー: 食事からのエネルギーが不足すると、鉄の吸収も妨げられます。
- 持久力運動: 長時間の運動は鉄の需要を増加させます。
- 更年期前後: ホルモンの変化が鉄の調整に影響を与えます。
鉄の調整に主に関与する2つのホルモン
ヘプシジン
体内で鉄の吸収や分配を調整する重要なホルモン。食事から摂取した鉄の吸収や、鉄の血液への放出を管理しています。
- 体内の鉄のバランスを保つ:鉄は血液の中で酸素を運ぶための重要な要素ですが、過剰に摂取されると逆に体に悪影響を与えるため、ヘプシジンにより腸での鉄の吸収を減らすことで、過剰な鉄の吸収を防ぎ、適切なバランスを保っています。
-
炎症との関係: ヘプシジンの量は、体内の炎症がある場合に増加(アップレギュレーション)します。炎症は傷や感染症への反応として起こりやすく、激しい運動、月経前後、または長期間のストレスも炎症の原因となります。このときヘプシジンの分泌が増え、鉄の吸収が抑制されます。
- 月経中や鉄不足が続く場合:ヘプシジンの低下により腸での鉄吸収が増加し、体は鉄の再利用を進めます。これにより、月経時に不足しがちな鉄の貯蔵を維持することが可能になります。
-
ホルモンやビタミンの影響: ヘプシジンは、エストロゲンやテストステロン、ビタミンD3の影響を受け、これらが高まるとヘプシジンの分泌が低下(ダウンレギュレーション)します。
- 運動による炎症: 運動後、特に月経前の女性では、3-6時間、月経後の女性では最大24時間、ヘプシジンの活性が増加します。これにより、腸からの鉄の吸収と再利用が減少します。
- 鉄欠乏時のメカニズム: 鉄欠乏があると、このメカニズムはダウンレギュレーションされますが、元々鉄の血中濃度の低いアスリートは鉄の貯蔵を十分に確保できません。
-
ヘプシジンが正常に働くために:
-
ビタミンDの適切レベル - ビタミンDが不足するとヘプシジンが過剰に分泌されることがあり、鉄の吸収が妨げられます。
-
炎症の抑制 - 炎症が高まるとヘプシジンが増加し、鉄の利用が低下します。
-
酸素供給のバランス - 低酸素状態はヘプシジンの抑制を助け、鉄の吸収を促進します。
-
鉄のバランスの取れた摂取 - 過剰な鉄摂取はヘプシジンを増加させ、逆に不足は抑制します。
-
ホルモンバランス - エストロゲンやテストステロンはヘプシジンを調整し、鉄代謝に影響します。
-
健全な腸内環境 - 健康な腸内フローラは栄養の吸収効率を高め、ヘプシジンの適切な分泌をサポートします。
これらの要因により、ヘプシジンが正常に働き、体内の鉄のバランスが維持されます。
エリスロフェリオン
エリスロフェリオン(エリスロフェロンとも呼ばれます)は、赤血球の生成や鉄の調整において重要な役割を果たすホルモンで、骨髄の赤芽球から分泌されます。
- エリスロフェリオンの機能:
-
ヘプシジン抑制
エリスロフェリオンは、肝臓でのヘプシジン産生を抑制します。ヘプシジンが減少すると、腸での鉄吸収と脾臓や肝臓からの鉄放出が促進され、赤血球の生成に必要な鉄が確保されます。
-
赤血球生成の促進
エリスロポエチンの刺激を受け、骨髄でエリスロフェリオンが分泌されると、体内の鉄が赤血球生成に優先的に供給されます。これは特に貧血や出血などで赤血球の需要が高まるときに重要です。
-
鉄の動員調整
エリスロフェリオンがヘプシジンの抑制を介して鉄の利用効率を高め、骨髄や他の組織への鉄供給を最適化します。これにより、持続的な赤血球の生成が可能となります。
-
低酸素状態への対応
低酸素環境ではエリスロポエチンが増加し、それに応じてエリスロフェリオンの分泌も促進され、赤血球生成が活性化されます。これにより酸素運搬能力が改善し、組織の酸素供給が保たれます。
-
慢性疾患の貧血改善
慢性疾患による炎症がある場合でも、エリスロフェリオンはヘプシジンを抑制して鉄の利用をサポートし、貧血の予防や改善に貢献します。
-
成長と発達のサポート
成長期には鉄の需要が増えるため、エリスロフェリオンが鉄の適切な供給を促し、発育に重要な鉄のバランスを維持します。
-
エリスロフェリオンが正常に働くために:
- 鉄代謝のバランス:体内の鉄分が適切に維持されていることが、エリスロフェリオンの正常な分泌に寄与します。
- エリスロポエチンの適切な分泌:エリスロフェリオンはエリスロポエチンの刺激で生成されるため、エリスロポエチンの安定した分泌が重要です。
- 造血の健康:骨髄での正常な赤血球生成はエリスロフェリオンの機能維持に不可欠です。
- 栄養素のバランス:特にビタミンやミネラル(鉄やビタミンB12,葉酸など)の適切な摂取が、エリスロフェリオンの調整に影響を与えます。
- 炎症の管理:慢性炎症はエリスロフェリオンに悪影響を及ぼすことがあるため、炎症レベルの抑制が重要です。
- ホルモンバランス:特にエストロゲンやテストステロンなどのホルモンは、エリスロフェリオンの調整に関与する可能性があるため、ホルモンの安定が求められます。
これらの要因が適切に管理されることで、エリスロフェリオンの機能が保たれ、鉄代謝や造血プロセスがサポートされます。
月経周期における鉄の調整
運動は体内に炎症を引き起こすことがあるため、鉄分の適切な管理は女性アスリートの健康とパフォーマンス維持に欠かせません。月経時の鉄分が不足がちな時期に激しい運動をしたり体に負荷がかかると貧血の増悪の可能性が高まります。月経周期や生活習慣に応じた鉄分管理が、女性の健康とパフォーマンス向上に繋がります。
普段から意識してとりたい食品
参考までに鉄分を多く含む食材を5個、その成分量とともに表にまとめました。
食材 |
鉄分含有量 (100gあたり) |
豚レバー |
13.0mg |
鶏レバー |
9.0mg |
牛もも肉(赤身) |
2.7mg |
かつお(生) |
1.9mg |
さんま(焼き) |
1.7mg |
関連記事
参考文献
-
Ganz, T. & Nemeth, E. (2012). Hepcidin and iron homeostasis. Biochimica et Biophysica Acta, 1823(9), 1434-1443.
- ヘプシジンと鉄代謝のメカニズム、および炎症がヘプシジン分泌に及ぼす影響を詳述。
-
Nemeth, E. et al. (2004). Hepcidin regulates cellular iron efflux by binding to ferroportin and inducing its internalization. Science, 306(5704), 2090-2093.
- ヘプシジンがフェロポーチンと結合し、細胞内の鉄排出を調整する仕組みについて。
-
Sardar, M. et al. (2015). Effects of vitamin D on hepcidin, IL-6, and TNF-α in relation to inflammation and iron metabolism. Journal of Inflammation Research, 8, 123-130.
- ビタミンDがヘプシジンと炎症性サイトカインに及ぼす影響に関する研究。
-
Dale, J. C. et al. (2002). Role of estrogen and androgen in iron metabolism and regulation of hepcidin. Endocrinology, 143(4), 1351-1355.
- エストロゲンやテストステロンが鉄代謝に及ぼす影響とヘプシジンの調整について。
-
Mastrogiannaki, M. et al. (2009). HIF-2α, but not HIF-1α, promotes iron absorption in mice. Journal of Clinical Investigation, 119(5), 1159-1166.
- 酸素供給と鉄吸収の関係におけるHIF-2αの役割とヘプシジン調整の関連性。
-
Zimmermann, M. B. & Hurrell, R. F. (2007). Nutritional iron deficiency. The Lancet, 370(9586), 511-520.
- 鉄摂取不足が引き起こす影響と、ヘプシジン分泌との関連性についての概説。
-
Cherayil, B. J. (2010). The role of iron in the immune response and host-pathogen interaction. Immunologic Research, 50(1), 1-9.
- 鉄と免疫反応の関係を詳述し、ヘプシジンが感染症に関与する仕組みについて。
-
Saito, H. et al. (2014). Gut microbiota and iron homeostasis: The role of intestinal flora in regulating hepcidin. Current Opinion in Gastroenterology, 30(2), 210-215.
- 腸内フローラが鉄代謝とヘプシジンに及ぼす影響に関する研究。