健康寿命を伸ばすために今すぐできること

2024年10月の日本抗加齢医学会での勉強会から最新データをシェアします。人生100年時代の課題はまだまだあり、私たち一人一人が正しい知識を身につけ取り組んでいく必要があります。
1. 長寿社会の進展と人口構成の変化
日本は世界一の長寿社会を迎えており、100歳以上の人口は5年連続で増加しています。2023年時点で100歳以上の高齢者は約9.5万人に達し、そのうち88.3%が女性です。また、90歳を迎える割合も女性は2人に1人に対し、男性は4人に1人と、長寿には性差が見られます。この傾向は日本の人口構成や介護の在り方に影響を与えています。
2. 長寿と健康寿命のギャップ
長寿社会といえども、健康に動ける期間と実際の寿命の間には大きな差があるのが現実です。
例えば男性は平均9年、女性は平均12年を寝たきりや介護を受ける状態で過ごしていて、その現状はこの10年以上変わっていません。この差を縮めるためには、日々の生活習慣の改善が鍵となります。特に注目されているのが血糖値の管理です。
最新の研究では、日本人の10人中9人が食後に血糖値が急上昇しやすい体質であることが明らかになりました。若年期の砂糖摂取が大腸がんのリスクを高める可能性もあり、生活習慣の改善が求められます。これを踏まえ砂糖を控えたり、血糖値の急上昇を抑える食べ方を意識することが健康寿命を延ばす一歩につながるのではないでしょうか?
3. 死因と生活習慣の関連
日本人の主な死因は「がん」「心疾患」「老衰」の順です。女性では大腸がんが最も多く、がん全体の発症数は減少していません。また、男性の心筋梗塞の主な原因は動脈硬化ではなく血栓症とされ、肺がんの原因についても環境要因の可能性が指摘されています。禁煙だけではリスクが減少していないため、他の対策も重要です。
4. フレイル予防と栄養
65歳以上の要介護原因の80%が「フレイル(虚弱)」とされ、早期の発見と対策が必要です。長寿地域では、緑黄色野菜や海藻、大豆、小魚などの食材が日常的に摂取され、長寿に寄与しています。例えば京都では昆布だしの文化が薄味の食生活を促し、健康寿命に貢献しているとされています。
5. 健康栄養学の進化
日本の栄養学も、栄養欠乏から過剰摂取、そして長寿時代に対応した「健康栄養学」へと進化しています。九州大学の久山町研究では、日本食が特定疾患の予防に効果的であると報告されています。フレイル予防には高品質なタンパク質(特に魚や植物性)と食物繊維が重要で、根菜、穀類、豆類からの摂取が推奨されています。食物繊維は腸内環境を整え、腸内細菌の多様性も確保するため、腸内フローラを整える発酵食品やプレ・プロバイオティクスの摂取が役立ちます。
6. 地球環境と健康のつながり
私たちが毎日選ぶ食材が、地球環境に影響を与えていると聞くと驚きませんか?例えば、牛肉やマグロといった食材は、生産過程で多くの資源を消費します。牛肉は飼育に大量の飼料や水を必要とし、その過程で発生するメタンガスが地球温暖化を加速させることが知られています。また、マグロは乱獲の影響で個体数が減少し、海洋生態系への負担が問題視されています。
一方で、豆腐や旬の地元野菜はどうでしょうか?豆腐の原料である大豆は、比較的少ない資源で栽培でき、地元野菜は長距離輸送が不要なため、輸送中のCO?排出量が抑えられます。また、旬の野菜は栽培時に余計なエネルギー(温室加温や輸入)を必要としないため、自然のサイクルに沿った持続可能な選択と言えます。
こうした選択は、環境への負担を減らすだけでなく、自分自身の健康にもプラスになります。「ちょっとだけ意識することで、地球にも自分にも優しい暮らしができる」そう思うと、毎日の食事がもっと楽しくなりませんか?
7. 腸内環境と健康
「ガットフレイル」(腸の虚弱化)という新しい概念が注目され、腸内環境がフレイルや認知症リスクに影響することが分かってきました。腸内フローラのバランスが健康を左右し、多様性があるほど良好です。腸内細菌叢が整っていると、長寿やフレイル予防に役立ち、最近では呼気分析や腸内細菌代謝物の3Dガスマッピングなども研究されています。
8. 労働生産性と健康
日本の労働生産性は先進国で最下位に位置し、病気でも出勤する「プレゼンティズム」が大きく影響しています。さらに、注意欠陥障害のある子どもの増加や、潰瘍性大腸炎・パーキンソン病の増加も報告され、腸の炎症がこれらの疾患リスクを高める可能性が指摘されています。パーキンソン病は便秘と関連が深く、特に男性の便秘はリスクが高いことも明らかになっています。
9. フレイル予防のための食事
フレイル予防には「4P」アプローチが効果的です。
- Plant-based:新鮮な野菜や果物を中心にする
- Protein:魚や大豆からタンパク質を摂取
- Pre and probiotic-rich foods:食物繊維や発酵食品で腸内環境を整える
- Participation and place-based eating:地域の食材を活用する
この他にも、日本では2023年から糞便移植の臨床研究が始まり、腸内細菌叢の多様性を確保することで健康維持を目指す取り組みも進んでいます。
フレイルについての関連記事
筋肉アンチエイジング 病態編その1
10. 日本食とサルコペニア予防
日本食は、フレイルやサルコペニア予防に有効であるとされています。体重1kgあたり1g以上のタンパク質摂取が目安とされ、質の良いタンパク源として魚介類や植物性食品が推奨されます。また、高齢者では若者よりも筋たんぱく質合成が低下しているため、タンパク質を摂取しても筋肉量が維持しにくい状況にあります。この点で、日本食は筋力低下のリスクが高い高齢者のサルコペニア予防に貢献できるとされています。
筋肉とタンパク質についての関連記事
年齢とともに変わる筋肉と体の仕組み
まとめ
日本は長寿社会として、生活習慣の見直しや腸内環境の改善を通じて、健康寿命の延伸と生活の質の向上を目指す必要があります。また、食生活の選択が地球環境にも影響を及ぼすため、社会的公平性を考慮した持続可能な食の在り方も求められています。