隠れ貧血に注意

 

2024年10月のホットトピック「健康な成人における鉄欠乏症、炎症状態によってしばしば隠される可能性」について
日本の統計と照らし合わせて解説します。

 

1. 鉄欠乏の背景と一般的な認識

健康に不可欠な微量栄養素である鉄は、米国だけでなく世界的において不足が一般的であることが知られています。特定の集団(子供や妊娠中の人)は鉄欠乏のリスクが高いとされていますが、健康な成人における鉄不足の発生率はこれまで低いと考えられていました。しかし、新たな研究により、約3人に1人の割合で健康な成人でも鉄欠乏症が見られる可能性が示されています。

 

2. 研究の概要

この研究は、米国成人8000人以上を対象とした全国代表調査(NHANESコホート)を基に行われ、鉄の貯蔵量と利用可能性を測定しました。

  • 絶対的な鉄欠乏症: 血清フェリチンが30 ng/mL未満の場合。
  • 機能的な鉄欠乏症: 血清フェリチンが正常であっても、トランスフェリン飽和度が20%未満の場合と定義されます。(検査値の解説は最後部に記載)

 

3. 結果

米国成人のうち、

  • 絶対的な鉄欠乏症は約14%
  • 機能的な鉄欠乏症は約15%
    これらは特に若い女性や男女全般に影響を与えています。さらに、炎症状態があると貧血の診断を難しくしていることが示唆されています。

 

4. 炎症と鉄欠乏の関連性

この研究は、機能的な鉄欠乏症の主な要因として「炎症」が関与していることを示しています。肥満による炎症は「ヘプシジン」という分子の増加を引き起こし、これが鉄の輸送を妨げることで体内での鉄利用が不十分になる可能性があります。肥満の人は、機能的な鉄欠乏症のリスクが高いことも明らかになりました。

 

5.日本における貧血事情

では日本の貧血人口はどうなっているでしょう?
以下に米国、日本、世界の貧血人口を表にしてみました。

 

年齢層 米国男性 米国女性 日本人男性 日本人女性 世界全体の女性 世界全体の男性
20代 2% 10-12% 3% 10-15% 33.7% 11.3%
30代 3% 12-15% 4% 12-20% 33.7% 11.3%
40代 4% 16-18% 5% 15-25% 33.7% 11.3%
50代 5% 18-20% 6% 18-22% データ不足 データ不足
60代以上 7.4% 7.6% 8% 8-10% データ不足 データ不足

 

世界全体となると栄養不良の国々も含まれるので比較が難しいですが、米国との比較上では日本人女性の貧血人口は30代以上は米国よりも高いと言えそうです。

 

血液検査でヘモグロビンの値だけで貧血を判断するのは不十分と言えます。このアメリカでの研究結果が全く日本に当てはめられるかはわかりませんが日本においても統計の値以上に貧血人口が多いのは容易に想像でき、2,3人に1人は貧血と考えて良いのでは。。また炎症があるフェリチンも上昇するので貧血がマスクされることも。心配な方は一度血液検査でスクリーニングをしてみると良いですよ。

 

5. 結論

この研究は、従来の診断指針に影響を与える可能性があり、貧血がない場合でも鉄欠乏症の検査を行うことが重要であることを示唆しています。特に、炎症や肥満の影響を考慮し、適切な診断と治療が必要です。

 

 

トランスフェリン飽和度(TSAT)は、体内の鉄の供給状態を評価するために使われる重要な指標です。トランスフェリンは、血液中で鉄を運ぶタンパク質で、飽和度はトランスフェリンにどれだけの鉄が結合しているかを示します。

  計算式: トランスフェリン飽和度は以下の式で計算されます。TSAT(%)=(血清鉄TIBC)×100

 (血清鉄: 血液中に存在する鉄の量(単位はμg/dL)。TIBC: トランスフェリンが運搬可能な鉄の最大量(単位はμg/dL))

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References

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