健康志向の落とし穴:過度な運動と食事制限が招く低エネルギー状態の真実

 

低エネルギー可用性Low Energy Availability(LEA)とカタボリック危機は、女性アスリートだけでなく高齢化に伴い全て人の健康を脅かす深刻な問題です。ここではその概念を理解し適切な予防と対策を知っていきましょう。

 

低エネルギー可用性(LEA)とは?

  • LEAの概要

LEA(低エネルギー可用性)とは、運動で消費されたエネルギーを差し引いた後に、体が日常生活や基本的な生理機能を維持するために必要なエネルギーが不足している状態を指します。つまり、食事から摂取したエネルギー量が、運動後の日常活動に必要なエネルギーを下回る場合、体の基本的な生理機能が正常に働かなくなるリスクが高まります。

 

LEAが体に与える影響

  1. 身体システムのエネルギー節約機能
    エネルギーを節約するため、いくつかの生理機能が抑制されることがあります。たとえば、女性の場合、月経周期の異常や停止が見られることがあります。

  2. ホルモンバランスの乱れ
    LEAはホルモン機能に影響を与え、トレーニングや運動の効果が得られにくくなることがあります。

  3. 代謝の低下
    持久力やパフォーマンスが低下し、トレーニング効果が得られにくくなります。

  4. 骨の健康へのリスク
    骨密度の減少やストレス骨折のリスクが増加します。

  5. 免疫機能の低下
    エネルギー不足により免疫力が低下し、風邪や感染症にかかりやすくなります。

  6. 消化機能の問題
    消化管が適切に栄養を吸収できなくなり、体内の栄養状態が悪化する可能性があります。

  7. 神経筋の連携低下
    エネルギー不足により筋肉と神経の協調がうまくいかず、ケガのリスクが高まります。

  8. 精神面への影響
    疲労感や注意力の低下を引き起こし、運動関連のエネルギー不足症候群(RED-S)につながるリスクもあります。


LEAの管理方法

  • 運動量の調整
    トレーニングの強度や量を減らし、体への負荷を調整することが重要です。

  • 運動前後の栄養補給
    運動の前後に適切な栄養を摂ることで、エネルギー不足を補い、身体が必要とするエネルギーを確保します。

カタボリッククライシス

 LEAが長期化すると、さらに深刻なカタボリック危機に陥るリスクがあります。 これは、LEAによる代謝の極端な乱れが引き起こす、筋肉量の著しい減少や免疫機能の低下など、生命の危機につながる状態です。

  • リスクの高い人々の特徴
  1. 長期にわたるダイエットや過度の食事制限を続けている人
  2. 激しい運動をしているものの、十分な栄養補給ができていない人
  3. 様々なストレスにさらされ続け、代謝が持続的に低下している人
  4. 高齢で筋肉量の減少が進行しているにも関わらず、低栄養状態にある人
  5. 低体重ややせ型体型
  6. 栄養管理やメンタルヘルスのサポート不足
一昔前にファッションモデルの痩せすぎが問題になりましたが、アスリートだけでなく、一般の健康志向の人や高齢者など、エネルギー・栄養バランスが崩れがちな人々もリスクにさらされています。極端な食事制限をしていないか、自分を追い込みすぎていないか。。以下の兆候も含めて改めて確認してみましょう。

 

カタボリック危機の兆候と対策

  • 以下の症状は、代謝の悪化を示す危険な兆候です。長期化すれば、やがてカタボリック危機に陥る可能性が高まります。早期発見と適切な対策が重要です。
  1. 持続的な疲労感と集中力の低下
  2. 筋力の低下:日常の動作がしにくくなったり、以前のようなパフォーマンスが出せなくなるなどの変化に注意を払いましょう。
  3. 体重の減少:長期的な低栄養状態では、筋肉量や脂肪組織の減少により、体重が徐々に減少していきます。特に、意図せぬ体重減少には注意が必要です。
  4. 頻繁な風邪やケガ:風邪をひきやすくなったり、軽微な外傷でも治りが悪くなります。健康状態の変化に敏感に反応することが大切です。
  5. 月経異常:女性の場合、ホルモンバランスの乱れによって、月経周期の異常や無月経が現れることがあります。生理的な変化には十分な注意を払いましょう
  6. 骨密度の低下:エネルギー不足が続くと、骨密度が低下し、ストレス骨折のリスクが高まります。定期的な検査で、骨の健康状態を確認することが重要です。
  • カタボリック危機への対策
  1. タンパク質の適切な摂取  
    筋肉の回復や修復のために、十分なタンパク質を含む食事が推奨されます。

    (推奨量)

     更年期前女性:1.6~2.0g/kg/日

     更年期以降の女性:1.8~2.0g/kg/日 

  1. タンパク質分解、合成に必要な栄養素の補充:ビタミンB群、亜鉛など

     単にタンパク質を摂取するだけでなく、腸内環境を整えて栄養素の吸収、再合成力を高めることが重要です。

     腸内環境を整えることで、栄養素の吸収率を向上させ、体内での再合成を効率よく進めることができます。

特にタンパク質の消化や吸収に関与する酵素や腸内細菌の働きをサポートすることが重要です。

  1. 十分な休息と回復の確保
  2. メンタルヘルスケアの提供

カタボリック危機に陥った場合は、これらの総合的なアプローチが必要となります。早期発見と迅速な治療的介入によって、この危機的な状態から脱出することができます。

タンパク質を摂りたくても体が受け付けない、摂ってるのに筋肉がつかない、という方はタンパク質の分解合成回路が滞っている可能性があります。当院では、血液検査や栄養解析を通じて、タンパク質の合成に必要な栄養素を特定し、腸内環境を改善するための個別ケアを提案しています。気になる方はお気軽にご相談ください。
 
*LEA(低エネルギー可用性):運動で消費されたエネルギーを差し引いた後に、体が日常生活や基本的な生理機能を維持するために必要なエネルギーが不足している状態
*カタボリック危機:筋肉の分解が合成を上回り、筋肉量が減少する状態を指し、これにより基礎代謝が低下し、体重管理が難しくなること
・RED-S:Relative Energy Deficiency in Sport」の略で、アスリートが長期間または重度のエネルギー不足にさらされることによって引き起こされる生理的・心理的な機能障害。特に持久系や体重階級制の競技において見られる。

まとめ

LEAは、運動を日常的に行う人やアスリートにとって深刻な影響を及ぼす可能性があるため、食事と運動のバランスを見直し、十分なエネルギーと栄養を確保することが重要ですまた、LEAが進行することによって引き起こされるカタボリック危機は老化を早めるだけでなく生命の危機となり得る状態です。自分を含め身近な人々にも当てはまるようなら早期に対策しましょう。

 

参考文献

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   - 女性アスリートにおける低エネルギー可用性(LEA)とその健康影響について包括的にまとめた国際コンセンサス声明

 

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   - エネルギー収支とスポーツ・運動時の体組成変化に関する包括的レビュー

 

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   - 無月経に伴う骨密度低下が、適切なエネルギー補給により改善された症例報告
 
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   - 女性アスリートにおける三主徴(エネルギー不足、無月経、骨粗鬆症)に関するポジションステートメント
 
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   - エリートエンデュランス競技者におけるLEAの実態と骨折率への影響を調査した研究
 
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   - 男女のエネルギー摂取制限が骨代謝に及ぼす影響を比較した研究
 
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   - 女性アスリートにおけるエネルギー可用性と骨代謝のdose-response関係を明らかにした研究

 

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