アトピー性皮膚炎への対策
アトピー性皮膚炎(湿疹)とは、皮膚が乾燥しやすく、かゆみや炎症を伴う慢性の皮膚疾患です。特に子どもに多く見られますが、大人にも影響があります。日本では、約1000万人と推定されています。特に小児期から発症するケースが多く、子どもの約10%、成人の約5%がアトピー性皮膚炎に罹患していると報告されています。年齢とともに症状が軽減する人もいますが、成人期まで持続するケースもあり、生活の質(QOL)に影響を与えてしまいます。特に、アトピー性皮膚炎を持つ子どもは、将来的に喘息や鼻炎、食物アレルギーを発症するリスクが高まるため、早期のケアが重要です。
皮膚のバリア機能と湿疹の原因
アトピー性皮膚炎の発症には、遺伝的要因と環境的要因が関与しています。私たちの皮膚は通常、「バリア機能」として、外部の刺激や細菌から体を守り、水分を保持する役割を果たしています。しかし、アトピー性皮膚炎の患者さんには、皮膚のバリア機能を支える「フィラグリン」という遺伝子に変異がある場合があります。この変異があると、皮膚の保湿力が低下し、細菌やアレルゲン(花粉やダニ、ホコリなど)に対する防御が弱まります。その結果、アレルゲンが皮膚から侵入しやすくなり、体の免疫反応が過剰に働くことで、かゆみや炎症が引き起こされます。
皮膚のバリアと細菌感染
皮膚の一番外側には「角質層」と呼ばれる部分があり、この層には「セラミド」という脂質が豊富に含まれています。セラミドは皮膚の保湿や抗菌作用を助け、外部からの細菌や異物の侵入を防ぐ役割があります。しかし、アトピー性皮膚炎ではセラミドが不足しがちで、その結果、皮膚が乾燥しやすくなり、黄色ブドウ球菌などの細菌が皮膚に侵入しやすくなります。この細菌の侵入が進むと、皮膚炎や感染症が悪化することがあります。
ある研究では、皮膚の脂質が十分にある場合、細菌の侵入はほとんど起こりませんでしたが、脂質が不足していると細菌が長く留まり、皮膚の炎症が進むことが確認されています。
アトピー性皮膚炎の管理方法
アトピー性皮膚炎の管理には、日々のスキンケアや生活習慣の改善が欠かせません。以下のような方法で、症状を和らげ、肌の健康を保つことが可能です。
保湿はアトピー性皮膚炎の症状を改善する基本事項です。シアバターやアロエベラなど植物由来のオイルやバターなどが含まれる保湿剤は皮膚のバリアをサポートします。また、リノール酸などの脂肪酸を含む製品も、皮膚のリピッド層を補い、乾燥を防ぎます。毎日の入浴後や皮膚が乾燥していると感じたときに、保湿剤を適量使うことで、皮膚の水分保持力を高めることができます。
食事も、皮膚の健康に影響を与える要因です。そもそも炎症を起こす食材(小麦、乳、砂糖)を体内に入れない、また自分の食物アレルギー物質を把握することに加えて、抗炎症作用のある食材やオメガ3脂肪酸を多く含む食品(例:魚、ナッツ、亜麻仁油)を積極的に摂取することは、体の炎症を抑える助けになります。また、ビタミンA、C、D、Eなどのビタミン類は、皮膚の修復と健康維持に役立ち、特にビタミンDは湿疹の重症度を軽減する効果が報告されています。ビタミンDは日光浴や食品、サプリメントから摂取できますが、過剰摂取にならないよう注意が必要です。(ビタミンDは遺伝的に日光浴によって生成される人とされない人がいます。)
具体的な食事例
- オメガ3脂肪酸:サーモン、サバ、くるみ、亜麻仁油
- 抗酸化ビタミン(A、C、E):にんじん、ほうれん草、ブロッコリー、ナッツ類
- ビタミンD:キノコ、サケ、卵黄、日光浴
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生活習慣の改善
アトピー性皮膚炎の予防策と治療の重要性
アトピー性皮膚炎は遺伝的な要因と環境的な要因が組み合わさって発症する疾患ですが、日常生活で皮膚のバリア機能を強化することが症状改善のカギとなります。特に幼少期からのスキンケアと生活習慣の管理をしっかり行うことで、アトピー性皮膚炎の進行や、将来のアレルギー性疾患の発症を防ぐ効果が期待できます。湿疹やかゆみを感じたら早期に医師に相談し、適切な治療を受けましょう。保湿剤やステロイド外用薬などを使用することで、症状を管理しやすくなります。
ステロイドの代替としての選択肢
モイゼルト軟膏とヒルドイドは、いずれも「ヘパリン類似物質」を主成分とする保湿・治療薬ですが、いくつか違いがあります。以下にそれぞれの特徴と違いをまとめます。
1. モイゼルト軟膏
- 効果:保湿、かゆみや乾燥の緩和、皮膚のバリア機能を補う。
- 特徴:保湿成分が配合され、特に乾燥肌やアトピー性皮膚炎の症状緩和に使用されます。肌に優しい成分が含まれるため、敏感肌の方や乳幼児に向いています。
- 使用感:やや柔らかく、肌に広がりやすい使用感です。
2. ヒルドイド
- 効果:保湿、血行促進、炎症抑制、皮膚の柔軟化など。
- 特徴:ヒルドイドはもともと血行促進効果も期待できるため、皮膚の治療や炎症の軽減に効果があり、打撲やあざの治療にも処方されることがあります。
- 使用感:ローション、クリーム、軟膏タイプなど複数の形状があり、部位や使用感の好みによって選択可能です。
共通点としては、どちらも「ヘパリン類似物質」を主成分とし、保湿やバリア機能の補助に効果的ですが、モイゼルト軟膏は特に保湿を重視しており、敏感肌や乾燥の強い部位に適しています。一方、ヒルドイドは血行促進作用が強く、炎症やあざの治療にも適用されることが多いです。どちらを選ぶべきかは、症状や目的に応じて診察の上ご提案いたします。
3.再生医療による抗炎症治療
ACRSという自己血からサイトカインを高濃度で抽出した注射です。炎症の強い部位や手術後の傷跡に注入すると回復が早まることが知られています。
まとめ
アトピー性皮膚炎は、皮膚が乾燥しやすく、アレルゲンや細菌が侵入しやすい状態にあります。日常的なスキンケア、適切な食事、生活習慣の改善が症状管理に効果的です。皮膚のバリア機能を守るためのスキンケアや栄養摂取を心がけ、必要に応じて医師に相談することで、日々の生活の質を向上させることができます。
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