環境汚染と慢性疾患

       

 

私たちの健康に影響を与える毒素や有害物質は、生活の中で避け難い存在です。本稿は日常的な毒素曝露がどのようにして健康に影響を与えるのかについて、機能医学の専門家であるダン・ルカッツァー博士とジョセフ・ピゾルノ博士の考察をシェアします。

 

毒素の新たな視点

毒素への曝露はかつて、喫煙や飲酒などの生活習慣の一部と考えられていました。しかし、現代では環境中の化学物質に知らないうちに曝露されることが、健康リスクにつながると考えられています。毒素は自然由来の有害物質、有害物質は人為的なものとされていますが、どちらも健康に悪影響を及ぼす可能性があるとされています。ピゾルノ博士は「かつて健康的とされていたものが、今では有害な物質の供給源になっている」と述べ、私たちの日常の環境の中で受ける影響を見直す必要性を訴えています。

 

環境毒素と糖尿病の関係

糖尿病の約90%が環境毒素に起因している可能性があるとされています。砂糖の摂取だけでなく、フタル酸エステル*やポリ塩化ビフェニル*(PCB)、ヒ素などの工業化学物質への曝露も、糖尿病リスクに大きく関与しています。肥満が糖尿病のリスク要因であることは知られていますが、汚染物質にあまり曝露されていない肥満者は、糖尿病の発症リスクが低いことと報告されています。このため、慢性疾患を抱える患者には、必ず毒素の有無を確認するべきと言えます

 

糖尿病リスク管理のステップ

糖尿病患者の健康を管理するためには、以下のような項目が重要です:

  1. 栄養状態の評価:栄養不足がある場合、それが糖尿病リスクを高める要因となる可能性があります。
  2. 遺伝的要因の確認:特に栄養に対する遺伝的感受性を把握し、環境毒素の影響を考慮します。
  3. 環境曝露の確認:日常的にどのような毒素や有害物質に曝露されているかを確認します。

これにより、糖尿病患者に適した治療計画が立てられるとしています。

 

主要な毒素とその健康影響

ピゾルノ博士は、特に有害な毒素として以下の物質を挙げています:

  • ヒ素DNAの損傷や膵臓のβ細胞の破壊に関連し、糖尿病患者の15~20%はヒ素に関係すると推定されています。
  • 鉛、水銀、カドミウム、PCB(ポリ塩化ビフェニル):いずれも神経系、腎臓、肝臓へのダメージを引き起こし、癌リスクも高まります。

特に小児期には、有機リン系農薬などの有害物質への曝露を最小限に抑えることが推奨されています。

 

毒素の測定方法

毒素レベルを正確に測定するには、以下の方法が推奨されます:

  • 血液や尿検査:現在の毒素曝露を測定するのに有効です。
  • 爪や髪のサンプル:体内に蓄積された毒素を測定できます。髪のサンプルは特にヒ素の測定に適していますが、個人差により毒素が髪から排出されない場合もあります。
  • 脂肪生検:特にPCBなどの脂溶性毒素を測定するのに有効ですが、コストが高くなります。
日本で可能なものは血液、尿、爪、髪ですが自由診療になり高コストなので10年前からなかなか広まっていないのが現状です。。

 

解毒と治療のアプローチ

毒素の曝露を避け、体内から排出を助けるためには以下の方法が推奨されます:

  1. 毒素の摂取源の除去:毒素を発生する製品や環境からの曝露を避けることが最も重要。
  2. 食物繊維の摂取増加繊維質の多い食品は消化管から毒素を排出する助けとなります。
  3. ビタミンCやグルタチオンの生成促進:これらは体内での解毒を助け、毒素の排出を促進します。
  4. キレーション点滴など
ヒ素の注意点(暴露の機会が多い)
  • 井戸水や地下水の使用
    1. 浄水器やろ過装置を使用し、代替の水源を検討する。
  • 米の摂取方法

    1. 米をしっかり研いで炊く前に浸水させ、余分な水で炊く。
    2. 毎食米を中心にせず、他の穀物や食材と組み合わせる。
  • 海産物や魚介類の選択

    1. 特に貝類や底生の魚はヒ素を含みやすいため、摂りすぎない。
    2. 信頼できる販売元の製品を選ぶ。
  • 農産物の選び方

    1. 根菜類は特に注意し、国産・オーガニックのものを選ぶと安全性が高い。
  • 加工食品や飲料の成分確認

    1. 成分表示を確認し、添加物が少ない食品を選ぶ。
    2. 特に輸入飲料は信頼性のある製品を選ぶ。
  • 有機野菜や無農薬栽培の食品を選ぶ

    1. 無農薬・有機農法の食品はヒ素含有リスクが低い場合があるため積極的に利用。
  • 食品添加物や保存料に注意

    1. 保存料や添加物の少ない食品を選ぶようにする。
  • 調理器具の安全性確認

    1. 古い調理器具やアンティーク食器にはヒ素を含む場合があるので注意。

 

自己免疫疾患*と毒素の関係

自己免疫疾患の多くは、体内に蓄積された毒素が原因であると考えられています。例えば、関節リウマチ(RA)の約20%は、PCBに関係しているとされています。毒素が体内の正常な組織に結合することで、免疫系が誤って自身の組織を攻撃し、自己免疫疾患が発症する可能性があります。

PCBの除去

PCBは体内に蓄積されやすく、半減期が3~25年と非常に長いため、完全な除去が難しい毒素の一つです。特定の薬剤や解毒プログラムを利用することで、腸からの排出を促進する方法が研究されていますが、さらなる効果的な手法の確立が必要とされています。

長期的なケトジェニックダイエットのリスク

ケトジェニックダイエットは短期的な減量には効果的ですが、長期間続けると体を酸性化させるリスクがあります。これにより腎臓や骨、筋肉に負担がかかり、以下のリスクが生じる可能性があります:

  • グルタチオン生成の低下:解毒機能が弱まり、毒素排出が困難になります。
  • 骨密度の低下:体が酸性化することで骨がカルシウムを失いやすくなり、骨粗しょう症のリスクが増加します。
  • 腎結石の形成:酸性化が続くと腎臓に負担がかかり、腎結石ができるリスクが高まります。
ファスティングは良い効果もたくさんありますが長期的に行うのは気をつける必要があります。毒素を入れない、解毒力を高める、この2つが基本ですね。

 

まとめ

毒素の蓄積は、糖尿病や自己免疫疾患など、さまざまな健康問題のリスクを高める要因として注目されています。また、環境からの毒素曝露を管理し、適切な食生活と解毒サポートを通じて体内からの毒素排出を促すことが重要です。極端な食事法は解毒機能に悪影響を与える可能性があるため、長期的な健康維持のためには適度なバランスを保つことを優先しましょう。

このように、私たちが日常生活で接触する毒素や有害物質が健康に及ぼす影響を理解し、適切な対策を講じることで、慢性疾患の予防と健康維持が実現します。

 

用語説明

*フタル酸エステル:主にプラスチックの柔軟性を高めるために使用される化学物質で、「可塑剤」として知られている。プラスチック製品を柔らかくするために広く使用され、製品から徐々に環境中に放出される性質があり、人体や生態系への影響が懸念されている。

*ポリ塩化ビフェニル(PCB):かつて絶縁油や潤滑剤として広く使用されたが、分解されにくく環境や健康に有害なため、現在は製造・使用が禁止されている化学物質。

*自己免疫疾患:免疫系が誤って自分自身の組織を攻撃し、慢性的な炎症や損傷を引き起こす病気。

 

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参考文献
  • Environmental Exposures and Autoimmune Disease
    Miller FW, Pollard KM, et al., Current Opinion in Rheumatology, 2012

  • The Human Exposome and the Health Effects of Chronic Chemical Exposure
    Wild CP, International Journal of Epidemiology, 2012

  • Toxicological Effects of Pesticide Exposure in Adults and Children: Implications for Risk Assessment
    Alavanja MC, Hoppin JA, Kamel F, Environmental Health Perspectives, 2004

  • Persistent Organic Pollutants and Diabetes: A Review of the Epidemiologic Evidence
    Lee DH, Porta M, Jacobs DR Jr., et al., Current Diabetes Reports, 2014

  • The Relationship Between Exposure to Environmental Toxicants and Type 2 Diabetes: A Systematic Review
    Lind PM, Lind L, Journal of Internal Medicine, 2012

  • Developmental Exposure to Endocrine Disruptors and the Risk of Obesity
    Newbold RR, Padilla-Banks E, Jefferson WN, Molecular and Cellular Endocrinology, 2009

  • Occupational Exposure to Heavy Metals and Risk of Type 2 Diabetes Mellitus: A Systematic Review
    Guallar E, Sinha R, et al., The Lancet Diabetes & Endocrinology, 2014

  • Environmental Toxicants and the Risk of Type 1 Diabetes
    Longnecker MP, Daniels JL, Environmental Health Perspectives, 2001

  • The Effects of Lead and Cadmium on the Central Nervous System
    Mergler D, Baldwin M, et al., International Journal of Occupational and Environmental Health, 2004

  • The Role of the Environment in Developmental Disorders and Neurodegenerative Diseases
    Grandjean P, Landrigan PJ, The Lancet Neurology, 2014

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