日常に潜む毒素と生活の工夫

      

 

現代の生活環境には、化粧品や洗剤などの日用品から放出される化学物質が多く含まれています。これらの化学物質は、知らないうちに体内に蓄積され、健康に悪影響を及ぼす可能性があります。慢性的な毒素の曝露を理解し、適切な対策を取ることで健康リスクを減らしていきましょう。

 

日常で触れる毒素

米国疾病予防管理センター(CDC)は、1976年から「バイオモニタリング*」を通じて、人々の血液や尿中に含まれる化学物質濃度を調査してきました。その結果、以下のような毒素が確認されています:

  • 持続性有機汚染物質(POPs):かつて使用されていたDDTなどの有害な農薬が該当します。DDTは米国で30年以上前に使用が禁止されましたが、環境や人体に残存している場合があります。
  • グリホサート農薬に含まれ、食品や水を通じて体内に蓄積します
  • ビスフェノールA(BPA)食品容器やプラスチック製品、レシートに使用されており、内分泌かく乱作用*を引き起こす可能性があります。
  • フタル酸エステルおもちゃやシャンプー、化粧品に含まれる化学物質で、特にホルモンバランスに悪影響を及ぼすことが指摘されています。
  • 揮発性有機化合物(VOC)清掃用品や建材に含まれ、頭痛や神経系障害、さらに長期的には発がんリスクを伴うことがあります。
体内の農薬蓄積量を測る検査もあります。数年前に私も受けましたが、普段気をつけているつもりでも相当量の農薬の蓄積がありショックを受けました。これらは日常的に注意してくれる人がなかなかいない状況なので知っておくだけでも意識が変わるはずです!

 

揮発性有機化合物(VOC)と室内空気汚染の影響

揮発性有機化合物(VOC)は、特に屋内環境において影響が強く、日常で使用する製品や建材から放出されます。たとえば、家具や塗料に含まれる半揮発性有機化合物(SVOC)は、長期間室内の空気中に残留し、ホコリや表面に付着します。これらは長期にわたり、肝臓や腎臓、神経系にダメージを与える可能性が報告されています。

米国環境保護庁(EPA)は一部のVOCの使用を規制していますが、これらの化学物質が体内にどのような複合的影響を及ぼすかは、まだ多くの部分が不明であり、さらに研究が必要とされています。

 

子供への健康リスク

室内環境が子供に及ぼすリスク

EPAによると、アメリカ人はほとんどの時間を室内で過ごしており、室内の空気は屋外よりも2-5倍汚染されているといわれています。特に子供は身体が小さく、発育途中で解毒機能も未成熟であるため、汚染物質の影響を受けやすくなります。子供が床に近い場所で活動したり、手を口に入れたりする行動によって、化学物質を体内に取り込みやすくなるので注意が必要です。

カーペットや家具に含まれる有害物質

カーペットや合成素材の家具には、ホコリとともに有害な化学物質が蓄積されやすく、ポリ臭化ジフェニルエーテル(PBDE)などの難燃剤が含まれていることもあります。PBDEはホルモン異常や発がんリスクに関連しており、子供の知能発達にも悪影響を及ぼす可能性があります。さらに、ベビーマットレスなどからも化学物質が放出されることが指摘されています。

 

身近な製品が放つリスク

個人ケア製品に含まれる有害物質

日常的に使用する化粧品やシャンプーなどには、フタル酸エステル類やBPAが含まれています。これらの化学物質は内分泌かく乱物質として作用し、ホルモンバランスに悪影響を与える可能性があります。妊婦や子供、特定の人種の方々は、他の層に比べてこれらの物質にさらされやすく、特に妊娠中の曝露は、子供の発達に悪影響を及ぼすことが懸念されています。

「自然派」製品に潜むリスク

オーガニック」や「自然派」と称される製品であっても、安全性が保証されているわけではありません。2018年の研究によれば、自然派の赤ちゃん向け製品からもVOCが検出され、健康に影響を与える可能性が指摘されています。オーガニック製品だからといって、化学物質に完全に無縁とは限らないため、慎重な製品選びが重要です。

 

室内環境を健康的に保つための対策

  • 換気の徹底:定期的に窓を開けて換気を行い、室内のVOCやSVOCを排出しましょう。

  • 自然素材の家具選び家具やカーペットには自然素材を選び、化学物質の曝露を減らしましょう。

  • 空気清浄機の利用HEPAフィルター*付きの空気清浄機を使用することで、室内の空気中の汚染物質を除去する効果が期待できます。

  • 定期的な清掃床や家具をこまめに清掃し、ホコリに蓄積された化学物質の吸入を防ぎましょう。

  • 製品の成分表示を確認日用品や化粧品は成分表示を確認し、フタル酸エステルやBPAを含まないものを選びましょう。

 

調理と保存における化学物質リスクと健康的な対策

高温調理と発がん性物質

高温で肉を調理すると、発がん性物質であるヘテロサイクリックアミン(HCA)や多環芳香族炭化水素(PAH)が生成されることが確認されています。これらは焼き肉や揚げ物で特に多く発生し、長期間にわたって大量に摂取することで、がんリスクが高まる可能性があります。(糖化) 発がん性物質の生成を抑えるには、抗酸化物質を含むマリネ(例:ニンニクやローズマリー)を使用することが推奨されます。

プラスチック容器の安全性

食材の保存や調理にプラスチック容器を使用することは、化学物質が食品に移行するリスクを伴います。電子レンジで加熱すると、プラスチックからさまざまな化学物質が移行することが確認されています。特にノンスティック調理器具(テフロン加工)に含まれるPFAS(パーフルオロアルキル化合物)も有害であり、長期にわたって使用することで健康リスクが指摘されています。これらのリスクを避けるためには、耐熱ガラスやステンレススチールの容器を使用することが推奨されます。

健康的な調理法の選択

鉄製やセラミック製の鍋を使用した調理も良い選択肢です。また、茹でや蒸しなどの穏やかな調理法を選び、調理に使用する油も温度に適したものを選ぶことで、発がんリスクを低減できます。

電子レンジもテフロン加工の調理器具も当たり前に使われていますが、ヨーロッパではそのことを話すと驚かれることが多くあります。便利ではあっても長期的に害になるものは極力避けるのが賢明な選択ですよね。。。

 

まとめ

私たちの日常生活には、知らず知らずのうちに多くの化学物質が含まれています。これらの毒素が長期的な健康リスクを引き起こす可能性があるため、室内環境の管理と日用品の選び方に細心の注意を払うことが大切です。製品選びや日常のちょっとした工夫で、健康への影響を最小限に抑えていきましょう。

 

用語説明

*バイオモニタリング:生体(ヒトや動物)の生物学的データを収集・解析して、健康状態、環境要因の影響、疾病のリスクなどを評価する技術やプロセス。通常、血液、尿、汗、呼気などのサンプルを用いて体内の化学物質や生理的な変化を測定する。

*内分泌かく乱作用:化学物質が体内のホルモン(内分泌)システムに干渉し、正常なホルモンの働きを阻害または模倣する現象。これにより、生物の発育、生殖、神経系、免疫系などに悪影響が生じることがある。

*HEPAフィルター(High-Efficiency Particulate Air filter):非常に高い粒子捕捉能力を持つエアフィルターの一種。微小な粒子を効果的に捕らえるため、特にアレルギー対策や空気質改善の目的で使用される。

 

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