メンタルヘルスの元凶は神経の炎症

                        

 

神経炎症とは、脳や脊髄に炎症が起きることを指します。これは、感染やケガ、ストレスなどが原因で脳の免疫システムが過剰に働き、神経細胞にダメージを与える状態です。この炎症が続くと、アルツハイマー病やうつ病などの病気につながる可能性があります。ここでは脳を炎症から守るためのアプローチを解説します。

 

 神経炎症と脳の健康

脳の健康には炎症が大きく影響しており、神経炎症はうつ病や統合失調症、認知症などの精神・身体の問題と深く関わっています。神経炎症が進行すると、認知機能が低下し、自律神経や運動機能にも悪影響を与えます。若い世代でも、慢性疾患(例:2型糖尿病)などにより体内炎症のCRP(C反応性タンパク質)値が高い場合、精神的健康に影響が出やすいことが確認されています。

 

 脳と腸の密接な関連

腸内環境が脳に与える影響も注目されています。腸のバリア機能が弱まると、腸粘膜の透過性が高まり、有害物質が体内に侵入し、これが脳に炎症を引き起こし、精神面や認知機能に悪影響を与えやすくなります。さらに、ある種の腸内細菌(Lactobacillus rhamnosusやLactobacillus plantarum*)が精神的健康と密接に関連しており、これらの菌が不足すると不安や気分の不調が現れることもあります。

Lactobacillus rhamnosus(ラクトバチルス・ラムノサス)やLactobacillus plantarum(ラクトバチルス・プランタルム)を含むサプリメントは、腸内環境の改善や免疫機能のサポートを目的として広く利用されています。

1.ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)を含むサプリメント

おなかラクト: 世界一の研究報告数を持つLGG®乳酸菌(Lactobacillus rhamnosus GG)を配合したサプリメントです。1日分に3000億個のLGG®乳酸菌が含まれ、生きたまま腸に届くことが特徴です。さらに、ビタミンC、ビタミンB2、食物繊維も配合されており、ヨーグルト風味のタブレットタイプで摂取しやすくなっています。
2. ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)を含むサプリメント
ヤクルトの発酵食品: Lactobacillus plantarumは、漬物やキムチ、ザワークラウトなどの発酵食品に多く含まれています。ヤクルト中央研究所によると、プランタルム菌は植物由来の発酵物から主に分離され、耐塩性を持つことから、これらの発酵食品の製造に役立っています。
これらのサプリメントや発酵食品を日常的に摂取することで、腸内環境の改善や免疫機能のサポートが期待できます。ただし、個人の体質や健康状態によって効果は異なるため、摂取を検討する際は医療専門家に相談することをおすすめします

 

脳のバリア機能の強化

脳を守るために重要なのは、脳のバリアとなってくれている血液脳関門*(BBB)の強化です。抗炎症作用があるクルクミン*やオメガ3脂肪酸、フィッシュオイルは、脳の健康をサポートするために有効とされています。フィトケミカル*(植物由来成分)は、神経伝達物質の機能をサポートし、神経炎症の抑制や抗酸化作用に役立つことがわかっています。

また、ジンジャーやスカルキャップ*(Scutellaria lateriflora)などのハーブも脳の炎症を抑えるのに効果的で、特にジンジャーはセロトニン*レベルを調整し、腸や脳の健康維持に有効です。クルクミンは、炎症メディエーター*(IL-6など)の抑制にも役立つことが確認されています。

 

精神的健康と脳の構造

脳の特定の部位は精神的健康に関連しています。例えば、海馬は記憶、扁桃体は感情の制御に関わっており、うつ病や不安症の患者さんでは短期記憶の問題が見られることが多く、長期化すると認知機能低下を招く場合もあります。さらに、慢性的な炎症は抗精神病薬の効果を低下させる可能性があり、早期の対応が求められます。

左:海馬 右:扁桃体

ライフスタイルの改善と脳の保護

  • 運動

運動は脳の血流を増やし、認知機能の維持や低下防止に効果的です。特にウォーキングや軽度の運動が、脳の健康や認知症リスクを減らすのに有効とされています。

  • 食事と栄養

地中海式食事のようにオメガ3脂肪酸や抗酸化物質が豊富な食事は、脳に良い影響を与えます。アミノ酸を豊富に含む食事も神経伝達物質*(ドーパミンやセロトニン)のバランスを整えるために有効です。

 

自律神経の調整と迷走神経刺激

  • 迷走神経刺激

迷走神経刺激(VNS)とは、迷走神経に電気的刺激を与えて、脳や神経系の調整を行う治療法です。主に難治性てんかんや薬が効かない重度のうつ病に使用され、炎症抑制や気分改善の効果も期待されています。これにより自律神経の調整をしやすくなり、精神的および認知機能の改善を認めます。また、迷走神経刺激は、GABAやセロトニンレベルの調整を助け、不安やストレスの軽減に役立ちます。呼吸法や瞑想、音響療法なども効果的であり、心身の健康維持に役立ちます。

 

  • 心拍変動率(HRV)と長寿

心拍変動率(HRV)は、

HRV: Heart Rate Variability)は、心拍間の時間間隔(R-R間隔)の変動を測定する指標で、心臓のリズムの揺らぎを表します。この指標は、自律神経系、特に交感神経と副交感神経のバランスを評価するために重要です。

HRVの主なポイント
  1. 高HRVの意味

    • 自律神経系のバランスが取れている状態。
    • ストレス耐性が高い、またはリラックスしている状態。
    • 健康な心肺機能。
  2. 低HRVの意味

    • ストレスが多い、または身体が疲労している可能性。
    • 自律神経系の調節機能が低下。
    • 健康状態が悪化している可能性(例えば、慢性疾患や心理的ストレス)。

 

自律神経を整え、HRVを高めることは、長寿と健康維持に寄与します。定期的な運動やストレス管理が、心拍変動率を改善し、心身のバランスを維持するのに役立つとされています。

 

神経炎症の診断と治療のアプローチ

治療の限界と期待

認知症やパーキンソン病など、構造的な脳の変化が進んでいる場合、完全な回復は難しいことが多いですが、症状の進行を遅らせたり生活の質を向上させることは可能です。多くの精神的健康問題は、適切な治療とライフスタイルの改善によって、十分に改善が期待できます。

 

まとめ

神経炎症や脳の健康は、脳と腸の密接な関連を含む多角的な要素に影響されています。適切な食事、ライフスタイルの改善、自律神経の調整など、さまざまなアプローチを通じて脳の健康を最適化していきましょう。
 

用語説明

*血液脳関門(けつえきのうかんもん) : 脳を守るための特殊な仕組みで、脳の血管にあるバリアのこと。このバリアは、有害な物質や細菌が血液から脳に入るのを防ぎ、必要な栄養や酸素だけを脳に届ける、脳の健康を保つ重要な役割を果たしている。

*クルクミン:ウコンに含まれる黄色い色素成分で、強力な抗酸化作用や抗炎症効果を持ち、健康維持や慢性疾患予防に役立つ。

*スカルキャップ : シソ科の植物で、主に伝統的なハーブ療法に用いられる。西洋スカルキャップ(Scutellaria lateriflora)と中国スカルキャップ(Scutellaria baicalensis)が代表的。

*フィトケミカル:植物に含まれる化学物質で、抗酸化作用や免疫強化など健康を促進する働きが知られている。

*セロトニン:脳や腸で生成される神経伝達物質で、気分、睡眠、食欲などを調整し、感情の安定や幸福感に重要な役割を果たす。

*炎症メディエーター:炎症反応を引き起こし、調節する化学物質で、代表例にはサイトカイン、ヒスタミン、プロスタグランジンなどがある。

*神経伝達物質: 経細胞間で信号を伝える化学物質で、脳や体の機能調整に重要な役割を果たす。

 
 
関連記事
運動とメンタルヘルス:不安や孤独感を吹き飛ばそう
ストレス対策の最前線:心と体をつなぐ腸脳相関
ストレスと免疫疾患の関係:予防と対策
 
参考文献
  • "The Gut-Brain Axis: Influence of Microbiota on Mood and Mental Health"
    Authors: Dinan TG, Cryan JF
    Journal: Clinical Psychopharmacology and Neuroscience, 2017

  • "Neuroinflammation and Alzheimer's Disease"
    Authors: Heneka MT, Golenbock DT, Latz E
    Journal: The Lancet Neurology, 2015

  • "Microbiota, Inflammation and the Gut-Brain Axis in Depression: Lessons from Animal Models"
    Authors: Kelly JR, Borre Y, O’Brien C, et al.
    Journal: Gut Microbes, 2015

  • "Omega-3 Fatty Acids and Brain Health"
    Authors: Su KP, Matsuoka Y, Pae CU
    Journal: Biological Psychiatry, 2015

  • "Chronic Inflammation and Neurodegeneration in Alzheimer's Disease"
    Authors: Heppner FL, Ransohoff RM, Becher B
    Journal: Nature Reviews Neuroscience, 2015

  • "Vagus Nerve as Modulator of the Brain-Gut Axis in Psychiatric and Inflammatory Disorders"
    Authors: Bonaz B, Bazin T, Pellissier S
    Journal: Frontiers in Psychiatry, 2018

  • "The Effects of Curcumin on Alzheimer's Disease and Depression"
    Authors: Lopresti AL
    Journal: Current Neuropharmacology, 2017

  • "The Influence of Exercise on Mental Health and Well-being"
    Authors: Rebar AL, Stanton R, Geard D, et al.
    Journal: American Journal of Lifestyle Medicine, 2015

  • "Blood-Brain Barrier Dysfunction in Neurodegenerative Diseases"
    Authors: Sweeney MD, Sagare AP, Zlokovic BV
    Journal: Nature Neuroscience, 2018

  • "Gut Microbiota's Effect on Mental Health: The Gut-Brain Axis"
    Authors: Rogers GB, Keating DJ, Young RL, et al.
    Journal: Frontiers in Immunology, 2016

その他のおすすめ記事

10代で始める骨の貯金:将来の骨健康を守る運動のすすめ                 10代の運動量は、生涯にわたる‥ 続きを読む
隠れ貧血が増加中?健康診断では見逃される鉄不足の真実 日常生活で突然目の前が暗くなったりする経験は起きていませんか?‥ 続きを読む
女性にクレアチンが必要な3つの理由:エネルギー、筋力、そして集中力     クレアチンは、筋肉だけでなく、脳や骨の健康を支‥ 続きを読む