ストレス対策の最前線:心と体をつなぐ腸脳相関

            

 

腸脳相関とは、腸と脳が神経やホルモンを通じて双方向に情報をやり取りし、消化、感情、ストレス応答に影響を与える関係を指します。神経系、免疫系、内分泌系が関与しており、腸の信号が心理状態に影響を与える一方、脳の信号が消化機能や腸内環境に作用します。また、腸内の「腸内マイクロバイオーム」と呼ばれる微生物のバランスが崩れると、心理的健康にも悪影響を及ぼすことが知られています。ここでは脳の健康を守るために腸活がいかに大切かをシェアします。

 

ストレスと腸内フローラの関係

心理的なストレスは腸内環境に悪影響を及ぼし、腸内フローラの不均衡(ディスバイオシス)を引き起こすことが報告されています。これにより善玉菌が減少し、病原菌が増えることで、消化機能の低下や栄養吸収の障害、免疫機能の低下が生じる可能性があります。具体的には以下となります。

  • コルチゾール*の過剰分泌
    ストレスは視床下部-下垂体-副腎(HPA)軸を活性化し、コルチゾールの分泌を増加させます。過剰なコルチゾールは、脳内の神経伝達物質の生成に必要な酵素や前駆物質のバランスを乱し、セロトニン*やドーパミン*といった「気分を安定させる物質」の分泌を抑制します。

  • トリプトファン代謝の変化
    セロトニンの前駆物質であるトリプトファンは、ストレスによってキヌレニン経路へと代謝が偏り、セロトニン合成に利用される量が減少します。このため、セロトニンの分泌が低下し、代わりに炎症物質であるキヌレニンが産生されます。

  • 腸内環境の悪化
    ストレスによる腸内フローラの不均衡(ディスバイオシス)は、セロトニンの90%以上を産生する腸内の細胞機能に悪影響を及ぼします。これにより、腸からのセロトニン分泌が低下し、全身のセロトニンレベルが減少します。

  • 神経ネットワークの変化

    ストレスが長期間続くと、脳の神経細胞の働きが低下し、セロトニンやドーパミンの分泌や伝達がうまくいかなくなります。その結果、気分や意欲が低下し、不安やうつなどの気分障害を引き起こすリスクが高まります。

ストレスと気分障害

不安やうつ病などの気分障害は、腸内細菌のバランスが崩れることと関連しています。有益な細菌が減少し、炎症を引き起こす細菌が増えることで、消化器系の不調やメンタルヘルスへの悪影響が生じます。この腸内環境の乱れは、消化不良や炎症性腸疾患、クローン病といった消化器系疾患とも関連しており、ストレスが腸内環境と全身の健康に直接的な悪影響を与えることが明らかになっています。

 

腸内細菌と脳の関連

2017年のUCLAの研究では、初めて腸内細菌の構成と脳の構造的変化に関連があることが示されました。過敏性腸症候群*(IBS)の患者では、腸内細菌の構成が特定の脳領域に影響を与えることが確認されました。特に幼少期のトラウマ経験が腸内フローラの構成や脳の発達に影響を及ぼし、腸脳相関の形成に関与している可能性が示唆されています。これは、幼少期の経験が長期にわたり腸と脳の健康に影響を与える可能性があることを示しています。 

動物や人間の研究により、腸脳相関が腸脳相互作用障害*(DGBI)、炎症性腸疾患(IBD)、認知症、アルツハイマー病、パーキンソン病、うつ病、慢性疼痛、統合失調症などの発症に関与している可能性が示されています。腸内フローラの乱れがこれらの疾患のリスクを増加させることが確認されていますが、治療には議論の余地がありつつも、腸内環境を改善することがこれらの疾患に対して有効である可能性も示唆されています。

 

プロバイオティクスの影響

プロバイオティクスのストレスや気分障害への効果

特定のプロバイオティクス菌種がストレスや気分障害を緩和する効果があることが報告されています。2020年のメタアナリシスでは、健康な成人がプロバイオティクスを摂取することで、ストレスや不安、うつ症状が軽減されることが確認されました。この効果は、腸内環境の改善を通じて心理的健康に良い影響を与えると考えられています。

 

アルツハイマー病と腸内フローラの関連

2021年の研究レビューでは、プロバイオティクスが腸内フローラのバランスを整え、炎症や酸化ストレスを軽減することで、アルツハイマー病や認知症の進行を遅らせる可能性が示されています。腸内細菌の調和が神経系の健康維持に重要であることから、プロバイオティクスが予防や進行抑制に役立つとされています。

 

機能医学的アプローチ

機能医学は、腸脳相関と全身の健康をサポートするため、以下のフレームワークを活用しています。

 

5Rフレームワーク
  • Remove(除去):有害な病原体や毒素を取り除く。
  • Replace(補充):消化を助ける酵素や消化液を補充する。
  • Repopulate(再植):プロバイオティクスやプレバイオティクスで腸内細菌のバランスを整える。
  • Repair(修復):特定の栄養素で腸粘膜を強化し、腸の健康を回復させる。
  • Rebalance(再調整):生活習慣の改善により全身のバランスを保つ。

このアプローチにより、腸内環境の乱れが原因で発生する不調を根本から改善し、腸脳相関をサポートすることが期待されています。

 

今後の展望

今後の研究により、腸内マイクロバイオームと脳の関係がさらに解明されることで、食事療法や生活改善が慢性疾患の治療に役立つ可能性があります。腸内環境を整えることで、メンタルヘルスの改善にもつながると期待されています。

昔学校に行きたくない時に”お腹が痛い!”と言ってサボった経験がある方は多いのでは、、?また、嫌なことがあると”胃がキリキリする”という表現もあるように、実際に脳と腸は繋がりが強いことがわかっています。普段からお腹ケアをしておくと、ストレスにも強くなれるので”気の持ちよう”と合わせて”お腹の持ちよう”にも気をつけたいですね。

 

用語説明

*神経伝達物質:神経細胞間で信号を伝える化学物質で、感情や記憶、体の調整に重要な役割を果たす。代表的なものに、感情や意欲に関与するセロトニンドーパミン、興奮を促すノルアドレナリン、抑制的に働くGABAなどがある。

*コルチゾール:コルチゾールは、ストレス時に分泌されるホルモンで、体のエネルギー供給や炎症の抑制、血糖値の調整に重要な役割を果たす。

*セロトニン: 通称”幸せホルモン”  

気分や睡眠、食欲の調整に関与する神経伝達物質で、精神の安定や幸福感を促す重要な役割を果たす。体内炎症で容易に分泌が低下する。

*ドーパミン: 通称”やる気ホルモン”

快感や意欲、運動機能の調整に関与する神経伝達物質で、やる気や報酬感覚の形成に重要な役割を果たす。

*過敏性腸症候群: 腹痛や下痢、便秘などの症状が繰り返される腸の機能異常で、ストレスや食事が症状に影響することが多い疾患。

*プロバイオティクス:腸内環境を改善し健康をサポートするために利用される、有益な生きた微生物(乳酸菌やビフィズス菌など)を含む食品やサプリメント。

*腸脳相互作用障害 : 腸と脳が情報をやり取りする機能が乱れ、消化機能や精神的健康に影響を及ぼす疾患群のこと。

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