肝臓解毒とDNAメチレーション

 

肝臓解毒とDNAメチレーションは、体内の解毒プロセスと細胞機能維持に重要な役割を果たしています。

 

肝臓解毒

肝臓は、血液を通して体内に入った有害物質を解毒する主要な器官です。解毒は主に二段階のプロセスで行われます。第一段階では、シトクロムP450酵素*が有害物質を化学的に変換し、水溶性で排出しやすい形にします。しかしこの過程で、活性酸素*が生成されるため、細胞にとって有害です。続く第二段階では、グルタチオン、硫酸、グルクロン酸などと結合させることで、これらの中間物質をさらに無毒化し、尿や胆汁を通して体外へ排出します。

解毒に必要な酵素や抗酸化物質の生成には、ビタミンB群、C、E、亜鉛、セレン、アミノ酸(特にメチオニンやシステイン)が重要です。これらの栄養素は、解毒プロセスをサポートし、肝臓の機能を維持します。

 

DNAメチレーション

DNAメチレーションは、DNAにメチル基*が付加されることで遺伝子の働きを調整する仕組みです。このプロセスは細胞分裂や免疫機能、神経の健康を保つために重要で、ビタミンB6、B12、葉酸、メチオニンなどの栄養素が必要です。これらが不足すると遺伝子の異常が起きやすく、がんや認知機能低下、免疫異常のリスクが高まります。また、肝臓の解毒機能と密接に関係しており、解毒が正常に行われることでDNAメチレーションも適切に保たれ、全身の健康が支えられます。

 
肝臓で解毒される物質
1. アルコール
  •  アルコールは肝臓でアルコール脱水素酵素によって分解されます。長期的な過剰摂取は肝硬変などのリスクを引き起こす可能性があります。
2. 薬物(例:パラセタモール、抗生物質など)
  • パラセタモール(アセトアミノフェン)*など多くの薬物は肝臓で代謝され、過剰摂取は肝障害や肝不全を引き起こすことがあります。
3. アンモニア
  • タンパク質分解により生成されるアンモニアは、肝臓で尿素に変換されて排出されます。
4. ビリルビン
  •  赤血球の分解によって生じるビリルビンは、肝臓で処理され胆汁として排出されます。処理が不十分な場合、黄疸を引き起こすことがあります。
5. 重金属(鉛、カドミウム、ヒ素など)
  •  鉛やカドミウムなどの重金属は肝臓で代謝され、体外に排出されます。高濃度に暴露されると神経系に悪影響を及ぼします。

                                              関連記事

6. 農薬や化学物質
  •  農薬や環境ホルモンなどは肝臓のシトクロムP450酵素系により代謝されます。
7. ホルモン
  • エストロゲンやテストステロンなどのホルモンも肝臓で代謝され、余分なホルモンは無毒化されます。

 

食品と植物栄養素による生体変換と排出のサポート

食事の変更と毒素排出サポート

有害物質への曝露が増加している患者にとっては、食事の改善が有効です。たとえば、ポリ塩化ビフェニル(PCB)*の生体変換*をサポートする食品として、十字花科の野菜(ブロッコリー、キャベツなど)、ベリー類大豆ニンニク、およびターメリックなどのスパイスが推奨されます。これらの食品は、内因性の解毒酵素の発現を促進し、特にスルフォラファン*、クルクミン、ケルセチン、レスベラトロールなどが、体内での有害物質の無毒化に寄与することが研究で示されています。

 

植物栄養素の役割 
アブラナ科の野菜に含まれるグルコシノレートは、スルフォラファンなどの生理活性物質に変換され、肝臓の酵素を活性化させます。これにより、フェーズIおよびフェーズIIの酵素が活性化され、毒素の生体変換が促進されます。また、大豆や大豆イソフラボンも、同様に肝臓のシトクロムP450酵素を調節し、生体変換をサポートします。(ただし乳がんリスクに注意)

食品による有害物質への曝露

食物由来の有害物質

日常の食事には、シーフードに含まれる金属化合物果物や野菜に残留する農薬、および乳製品に含まれるホルモンが含まれている可能性があります。これらの有害物質は、健康に悪影響を与える可能性があるため、摂取を制限することが推奨されます。

植物ベースの食事によるデトックス

一方、食事においては、毒素の摂取を減らしつつ、食物繊維抗酸化物質が豊富な植物性食品を多く摂取することで、肝臓の解毒プロセスをサポートし、毒素の排出を促進することができます。


臨床応用

解毒食品プランの活用 

完全に有害物質への曝露を避けることは困難ですが、可能な限り曝露を減らすことが健康に良い影響を与えることができます。機能性医学デトックスフードプランは、安全に毒素の生体変換と排出をサポートし、食事からの有害物質の摂取を減らすための有効なツールです。

 

栄養素とライフスタイルの調整

毒素に曝露された患者の治療には、ミトコンドリア*の健康をサポートし、栄養や運動を考慮したライフスタイルの調整が含まれます。特定の栄養素や食事パターンは神経保護作用が確認されており、炎症マーカーの減少症状の軽減に役立ちます。

この食事プランについては栄養外来で検査結果からその方にあったプランをご提案していますので、ご興味のある方は”栄養外来でフードプランを知りたい”とお問い合わせくださいね^^
運動の重要性

 適切な運動も、ミトコンドリア機能と認知機能の最適化に寄与します。例えば、低-中強度の運動短期のインターバルトレーニング*、さらにはタイチヨガなどのマインドボディエクササイズが推奨されています。関連記事

 

用語説明

*メチル基(CH?)は、炭素1つと水素3つから成る化学基で、分子に結合してその性質や働きを変える重要な役割を果たします。特にDNAメチレーションなどの生命活動や代謝過程で、遺伝子のスイッチを調整する役割を持っています。

*シトクロムP450酵素(Cytochrome P450):は、肝臓を中心に体内で働く酵素群。薬物や毒素、脂肪酸、ホルモンなどの代謝を担い、これらを無毒化または活性化して体外へ排出する。また、特定の化学反応(酸化反応など)を促進し、体内の化学物質の濃度を調整するため、個人の薬物反応や代謝能力に大きな影響を与える。

*活性酸素:体内で酸素が活性化した分子で、適量では免疫や代謝に役立つ一方、過剰になると細胞やDNAを傷つけ、老化や病気の原因となる。

*パラセタモール(アセトアミノフェン):鎮痛・解熱作用を持つ一般的な薬で、頭痛や発熱、軽度の痛みに広く使用されるが、肝臓への負担があるため、過剰摂取には注意が必要。

*ポリ塩化ビフェニル(PCB):かつて絶縁油や潤滑剤として広く使用された人工化学物質で、環境中で分解されにくく、内分泌攪乱や発がん性などの健康被害が懸念されるため、現在は製造・使用が禁止されている。

*生体変換:体内に取り込まれた薬物や毒素を酵素が代謝し、排泄しやすい形に変化させる過程。

*スルフォラファン:ブロッコリースプラウトやキャベツなどのアブラナ科野菜に含まれる植物化学物質で、強い抗酸化作用と解毒酵素の活性化を通じて、がん予防や炎症抑制に役立つとされている。

*ミトコンドリア:細胞内に存在する小器官で、エネルギー源であるATPを生成する「細胞の発電所」として機能し、細胞の代謝やカルシウム調節、アポトーシス(細胞死)の制御にも重要な役割を果たす。

*インターバルトレーニング:高強度の運動と低強度または休息の期間を交互に繰り返すトレーニング方法。持久力や心肺機能を効率的に向上させる効果がある。

 

関連記事

骨密度低下の新たな要因:重金属,EDC,大気汚染
日常に潜む毒素と生活の工夫
肝臓解毒とDNAメチレーション
重金属とアルツハイマー病、認知症の関係
ミトコンドリアを守る:環境毒素が与える影響と対策
内分泌攪乱化学物質(EDC)のリスクと安全な代替品の選び方

 

References

  1. Chen JG, Johnson J, Egner P, et al. Dose-dependent detoxication of the airborne pollutant benzene in a randomized trial of broccoli sprout beverage in Qidong, China. Am J Clin Nutr. 2019;110(3):675-684. doi:1093/ajcn/nqz122
  2. Panda C, Komarnytsky S, Fleming MN, et al. Guided metabolic detoxification program supports phase II detoxification enzymes and antioxidant balance in healthy participants. Nutrients. 2023;15(9):2209. doi:3390/nu15092209
  3. Peluso M, Munnia A, Russo V, et al. Cruciferous vegetable intake and bulky DNA damage within non-smokers and former smokers in the Gen-Air Study (EPIC Cohort). 2022;14(12):2477. doi:10.3390/nu14122477
  4. Hodges RE, Minich DM. Modulation of metabolic detoxification pathways using foods and food-derived components: a scientific review with clinical application. J Nutr Metab. 2015;2015:760689. doi:1155/2015/760689
  5. Jackson SJ, Singletary KW, Murphy LL, Venema RC, Young AJ. Phytonutrients differentially stimulate NAD(P)H:quinone oxidoreductase, inhibit proliferation, and trigger mitotic catastrophe in Hepa1c1c7 cells. J Med Food. 2016;19(1):47-53. doi:1089/jmf.2015.0079
  6. Li D, Shao R, Wang N, et al. Sulforaphane activates a lysosome-dependent transcriptional program to mitigate oxidative stress. Autophagy. 2021;17(4):872-887. doi:1080/15548627.2020.1739442
  7. Abbaoui B, Lucas CR, Riedl KM, Clinton SK, Mortazavi A. Cruciferous vegetables, isothiocyanates and bladder cancer prevention. Mol Nutr Food Res. 2018;62(18):e1800079. doi:1002/mnfr.201800079
  8. Jiang X, Liu Y, Ma L, et al. Chemopreventive activity of sulforaphane. Drug Des Devel Ther. 2018;12:2905-2913. doi:2147/DDDT.S100534
  9. Minich DM, Brown BI. A review of dietary (phyto)nutrients for glutathione support. Nutrients. 2019;11(9):2073. doi:3390/nu11092073
  10.  Ronis MJ. Effects of soy containing diet and isoflavones on cytochrome P450 enzyme expression and activity. Drug Metab Rev. 2016;48(3):331-341. doi:1080/03602532.2016.1206562
  11.  Zhou T, Meng C, He P. Soy isoflavones and their effects on xenobiotic metabolism. Curr Drug Met. 2019;20(1):46-53. doi:2174/1389200219666180427170213
  12.  Zhuzzhassarova G, Azarbayjani F, Zamaratskaia G. Fish and seafood safety: human exposure to toxic metals from the aquatic environment and fish in Central Asia. Int J Mol Sci. 2024;25(3):1590. doi:3390/ijms25031590
  13.  Lamat H, Sauvant-Rochat MP, Tauveron I, et al. Metabolic syndrome and pesticides: a systematic review and meta-analysis. Environ Pollut. 2022;305:119288. doi:1016/j.envpol.2022.119288
  14.  Malekinejad H, Rezabakhsh A. Hormones in dairy foods and their impact on public health – a narrative review article. Iran J Public Health. 2015;44(6):742-758.
  15.  van der Schoot A, Drysdale C, Whelan K, Dimidi E. The effect of fiber supplementation on chronic constipation in adults: an updated systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Am J Clin Nutr. 2022;116(4):953-969. doi:1093/ajcn/nqac184
  16.  Eagles SK, Gross AS, McLachlan AJ. The effects of cruciferous vegetable-enriched diets on drug metabolism: a systematic review and meta-analysis of dietary intervention trials in humans. Clin Pharmacol Ther. 2020;108(2):212-227. doi:1002/cpt.1811
  17.  Schott S, Minich D. Challenging case in clinical practice: implementation of a functional medicine detox food plan results in lower levels of alanine transaminase enzymes and resolves chronic gastrointestinal symptoms related to gastro-esophageal reflux disease. Altern Complement Ther. 2018;24(4). doi:1089/act.2018.29172.ssc

 

その他のおすすめ記事

10代で始める骨の貯金:将来の骨健康を守る運動のすすめ                 10代の運動量は、生涯にわたる‥ 続きを読む
隠れ貧血が増加中?健康診断では見逃される鉄不足の真実 日常生活で突然目の前が暗くなったりする経験は起きていませんか?‥ 続きを読む
女性にクレアチンが必要な3つの理由:エネルギー、筋力、そして集中力     クレアチンは、筋肉だけでなく、脳や骨の健康を支‥ 続きを読む