女性ホルモンと炭水化物の関係:運動時の栄養管理

 

女性アスリートにとって、炭水化物の適切な摂取は、持久力や運動パフォーマンスを最大限に引き出すために欠かせません。特に月経周期により体内ホルモンが変動し、これがエネルギーの代謝や炭水化物の利用に影響を与えます。ここでは女性特有の必要とされる栄養戦略についてシェアします。

 

炭水化物(CHO)摂取の必要性

  1. 脂肪とグリコーゲンのエネルギー代謝の違い

  • エネルギー源としての脂肪優位性:女性は男性と比較して、運動時に脂肪をエネルギーとして使う割合が高いとされます。エストロゲンは炭水化物の消費を抑制し、脂肪の燃焼を促進する作用があるため、同じ運動強度でも筋肉でのグリコーゲン消費を抑える傾向があります。これにより、女性は長時間の運動においてエネルギーをより効率的に維持できるという特徴が見られます。
  • プロゲステロンの影響:一方、プロゲステロンは脂肪の貯蔵を増加させ、運動中のグリコーゲン消費を抑えるため、エネルギー源としての炭水化物の利用が抑制されることもあります。これにより、特に黄体期の女性アスリートは、炭水化物の効率的な利用が必要です。

  1. エネルギー比(E:P比)の影響

  •  エネルギー比(E:P比)とはエストロゲンとプロゲステロンの比率を指します。月経周期の段階によってエネルギー比が変わり、炭水化物の利用効率が異なるため、女性アスリートにはこの比率を考慮した栄養補給が重要です。
  1. 月経周期と炭水化物の利用

  • エネルギー消費パターンの変化:月経周期の黄体期(排卵後から次の月経までの期間)では、グリコーゲンの消費が抑えられ、脂肪がエネルギーとしてより多く利用されるようになります。黄体期の女性は、運動中に炭水化物をエネルギー源として使う能力が低下するため、炭水化物の補給を意識することでエネルギー不足によるパフォーマンス低下を防ぐことが可能です。

炭水化物ローディングと補給の工夫

  1. 炭水化物ローディング

  • 目的と効果:持久力の必要な競技前に炭水化物を多く摂取して体内のグリコーゲンを最大限に蓄積し、運動中のエネルギー不足を防ぐ方法です。
    女性の場合、ホルモンの影響で男性よりも多くの炭水化物摂取が推奨されることがあります。※1
    ただし、摂取量は個々の体質や運動習慣に応じて調整することが大切です。
    ※1:体重50kgの男性が1日に摂取する炭水化物は約300gです。女性は同等の体重として約250gを摂取する必要がありますが、月経周期(特に黄体期)や妊娠・授乳など、女性特有のホルモン変化が起きている場合、女性の炭水化物必要量が一時的に男性と同等、またはそれ以上になることがあります。
  • ホルモン周期とパフォーマンス:研究により、女性が月経周期の卵胞期(エストロゲンが優位な期間)では炭水化物ローディングが効果的である一方で、黄体期にはパフォーマンスへの効果が減少する可能性が示されています。そのため、炭水化物ローディングの実施タイミングは月経周期に合わせるのが理想的です。
  1. 運動前後の補給

  • トレーニング前後のCHO補給:特にエネルギー効率が低下する黄体期には、運動前後に炭水化物を補給することでエネルギー供給を安定させ、疲労やエネルギー不足のリスクを軽減できます。サイクリングのような持久系運動では、卵胞期に比べて黄体期のパフォーマンスが低下することがあるため、この期間における炭水化物補給が不可欠です。

 

炭水化物を体に取り込むメカニズム

  1. 運搬役”GLUT4”の役割

  • GLUT4は、筋肉や脂肪細胞に存在する「グルコース運搬係」の一種で、インスリンやエストロゲンにより活性化されます。インスリンが分泌されるとGLUT4が細胞膜に移動し、血中のグルコース(糖分)を筋肉細胞や脂肪細胞に取り込みやすくすることで、エネルギー供給がスムーズに行われます。女性のエストロゲンもこのGLUT4に働きかけ、エネルギー効率を高めています。
  1. インスリン抵抗性とエストロゲン

  • インスリン抵抗性(IR):インスリンに対する細胞の反応が鈍くなると血糖値が上がりやすくなる「インスリン抵抗性」が生じることがあります。エストロゲンはこのインスリン抵抗性を改善する働きがあり、GLUT4の活性化を通じて効率的なグルコース取り込みをサポートします。

栄養戦略の重要性

  1. エネルギー供給の安定化

  • 運動中の炭水化物補給は、女性アスリートにおけるパフォーマンス維持に大きく寄与します。特に、エネルギー消費が多い運動や持久系スポーツを行う際には、エネルギーの安定供給のために適切なタイミングでの炭水化物摂取が必要です。
  1. トレーニングの工夫とホルモン周期

  • 黄体期には、エネルギー源として炭水化物の利用効率が低下するため、より脂肪を使ったエネルギー生成が期待されます。運動前後における炭水化物補給や、炭水化物と脂肪をバランスよく摂取することで、運動パフォーマンスを最適化し、エネルギー不足を防ぐことができます。

 

おすすめ炭水化物

以下の炭水化物はエネルギーを安定的に供給し、急激な血糖値の上昇を抑えるため、持続的なパフォーマンス向上に役立ちます。

  1. オートミール:オートミールは低GI食品で、消化がゆっくりと進み、安定したエネルギー供給を促します

  2. サツマイモ:食物繊維が豊富で、ゆっくりと消化され、血糖値の急激な上昇を抑えます 。
  3.  レンズ豆や他の豆類:低GIであり、炭水化物と同時にたんぱく質も含むため、筋肉の回復にも効果的です 。
  4. キヌア:糖値への影響が穏やかで、アミノ酸も豊富であるため、筋力の回復にも適しています 。

  5. 全粒パン(全粒粉):パンと比べて低GIで、血糖値の変動を抑え、エネルギーが持続的に供給されます 。

  6. バナナ(熟れる少し前):運動前のエネルギー補給や回復時に安定した炭水化物源となります 。

 

まとめ

女性アスリートにとって、月経周期に基づいた栄養補給戦略はパフォーマンスの向上に不可欠です。エストロゲンとプロゲステロンによる代謝やエネルギー利用の違いを理解し、適切な炭水化物補給を行うことで、体内のエネルギー供給を最大限に活用することが可能です。また、GLUT4の役割やインスリンの作用を考慮した糖代謝の管理は、エネルギー効率の維持に役立ちます。

運動をする女性にとって炭水化物摂取量は月経周期やホルモンの変動を考慮した戦略が必要です。アスリートでなくても運動をよくする方はぜひ参考にしてみてください。

婦人科検診でホルモンバランスを確認することで、体調を把握し、適切な栄養やトレーニング計画を立てられます。定期的な健診は、生活の質(QOL)向上への第一歩。ぜひ健康管理を大切にしてくださいね!

 

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参考文献

  1. Costello, J.T., et al. "Effects of Menstrual Cycle Phase on Athletic Performance in Female Athletes." Sports Medicine, 2021.
  2. Sims, S.T., et al. "Nutritional Recommendations for Female Athletes." Journal of Sports Science & Medicine, 2020.
  3. Hargreaves, M., and Spriet, L.L. "Skeletal Muscle Metabolism during Exercise in Females." Exercise Physiology, 2022.
  4. Mountjoy, M., et al. "The IOC Consensus Statement on Relative Energy Deficiency in Sport (RED-S): 2018 Update." British Journal of Sports Medicine, 2018.
  5. Loucks, A.B. "Energy Balance and the Reproductive System in Exercise Physiology." American Journal of Physiology, 2020.

 

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