腸内細菌叢と免疫

腸内細菌叢と免疫関連疾患における役割
腸内細菌叢(マイクロバイオーム)は、食事や生活習慣の影響を遺伝子や代謝に結びつける役割を持ちます。特に免疫系に強く影響を与え、健康や疾患の発症に深く関わっています
腸内細菌叢と免疫系のクロストーク(相互作用)
腸内細菌叢と腸の免疫細胞との間には、重要なクロストーク(相互作用)が存在します。この相互作用は免疫系の成熟や調整に欠かせないもので、腸内細菌がいないと免疫系が未熟になり、免疫不全が生じることが研究で示されています。健康な免疫応答を維持するためには、腸内の善玉菌と免疫系のバランスを保つことが重要です。例えば、短鎖脂肪酸*(SCFAs)などの腸内細菌が作り出す代謝物は、腸のバリア機能を強化し、炎症を抑える免疫細胞の形成を促進します。善玉菌のBacteroides fragilis*は、炎症を抑えるポリサッカライド*を生成し、IL-17(インターロイキン17)などの炎症性因子を抑制します。
*短鎖脂肪酸(SCFA: Short-Chain Fatty Acids)
腸内細菌が食物繊維を発酵することで生成される酢酸、プロピオン酸、酪酸などの脂肪酸で、腸の健康維持や免疫調整、エネルギー供給に重要な役割を果たします。
短鎖脂肪酸の生成を促す食材には、腸内細菌が発酵できる食物繊維やプレバイオティクスが豊富なものが含まれます。
以下の食品を摂取することで、腸内で短鎖脂肪酸が効率的に生成されやすくなります。
- 野菜: ゴボウ、玉ねぎ、アスパラガス、ニンニク。
- 果物: バナナ、リンゴ(皮ごと)、ベリー類。
- 豆類: レンズ豆、ヒヨコ豆、大豆。
- 全粒穀物: オート麦、玄米、大麦。
- ナッツ・種子類: アーモンド、亜麻仁
腸内細菌の不均衡(ディスバイオシス)と疾患
一方、腸内の善玉菌と病原菌のバランスが崩れることをディスバイオシスと呼び、これにより病原菌が免疫細胞を活性化させ、炎症反応を引き起こします。この炎症反応が持続すると、炎症性腸疾患*やセリアック病*など自己免疫疾患を引き起こすことがあります。
さらに、腸のバリアが損なわれると、細菌の生成物(リポ多糖)が血流に入り込み、体全体で炎症を引き起こす可能性があります。
この現象は、関節リウマチ(RA)における腸内細菌と炎症の関係を説明するもので、腸内細菌が関節炎の進行に関与していることが示唆されています。RA患者の関節液からは、ある種の細菌が検出され、抗生物質やプロバイオティクスによる治療が症状の改善に役立つことが報告されています。
腸内細菌とその他の免疫関連疾患
腸内細菌は、グレーブス病、橋本病、多発性硬化症、1型糖尿病、全身性エリテマトーデス(SLE)、乾癬など、多くの免疫関連疾患にも関与しています。さらに、腸内の炎症は、肝臓における慢性的な炎症(例:非アルコール性脂肪性肝炎(NASH))や膵炎、糖尿病などとの関係も報告されています。
腸内細菌を介した疾患へのアプローチ
腸内細菌叢は、環境要因(食事や生活習慣)によって大きく影響を受けます。このため、腸内細菌のバランスを改善することは、免疫関連疾患の発症や進行に影響を与える可能性があります。機能性医学では、腸内細菌叢を整えるための介入を行い、免疫関連疾患の治療をサポートします。
用語説明
*Bacteroides fragilis(バクテロイデス・フラジリス):ヒトの腸内に生息する代表的な常在細菌の一種で、消化を助けたり免疫系を調整するなどの有益な働きを持つ一方で、腸内バランスが崩れると感染症や炎症性疾患を引き起こすこともある。
*ポリサッカライド(多糖類):複数の単糖が結合してできた高分子化合物で、エネルギー源(デンプンやグリコーゲン)や細胞構造の成分(セルロース、ペクチン)として利用され、免疫調整作用を持つものもある(β-グルカンなど)。
*炎症性腸疾患(IBD: Inflammatory Bowel Disease):腸の慢性的な炎症を特徴とする疾患で、主に潰瘍性大腸炎とクローン病に分類される。これらは腹痛、下痢、体重減少などの症状を引き起こし、免疫系の異常反応や遺伝的要因、環境因子が関与していると考えられている。
*セリアック病:グルテン(小麦や大麦などに含まれるタンパク質)に対する免疫反応が原因で、小腸の粘膜が炎症を起こし、栄養吸収障害や下痢、腹痛、疲労などを引き起こす自己免疫疾患。
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